ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
【第2幕】抜け駆け一番槍
前田課長は、興奮を抑えるかのようにして一つ咳払いをした。そして、ぎこちない笑いをつくりながらこう言った。

 「こういったものはやり、 謝意を伝える誠意が一番。やはりおトヨどのが返礼に何を望むかを知るのが、肝要である。」

 先に石田係長が「過分の返礼」と言ったのは、前田課長が今日の昼休みにインターネットでホワイトデーお返しサイトにアクセスして 、「女子にモテるお返しグッズ」を物色していたことを揶揄したものである。

 前田発言は、これに対して「相手の気持ちを慮った誠意」という立場で反論をしたもので、前田課長は、お返しをすることを楽しみにしていたわけではないことを間接的に表明したのである。

 石田係長は、この発言を無表情なまま聞いていたが、小会議室の一番奥で腕組みをして、さっきから独り虚空を睨んでいた 上杉係長が初めて発言した。

 「今、前田課長は誠意と仰られたが、これはまことに重要なことである。もう少し言えば、そう、義と言ってもいいと思い申す。」

 「今回の一件は、おトヨどのの義理チョコレートという経済的、時間的負担に対して、我らが義をもって応えるべきではござらぬか。」

 上杉係長によって、新たに提起された義という観念に、いよいよ話が混乱してきたぞという空気が流れた。その空気をいち早く察したのはやはりムードメーカーの加藤代理であった。

 「ほう、上杉どの、ではそこもとが言う【義】とは、具体的には、どういうことでござるか。」
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