ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
加藤代理の発言がやや詰問調になったのは、上杉発言の中に、お返しに関して自分が何か費用以外に負担を負わねばならないようなものを感じたからである。彼はともかくホワイトデーが面倒くさいのである。上杉係長は、よどむことなくホワイトデーの義について語った。

 「おトヨどのが費やした時間、費用を各自が負うことが、本件における義である。」

 上杉係長は自分の発言に陶酔したのか、潔癖症ゆえスラックスのシワが気になったのか、立ち上がってこう続けた。

 「すなわち、まとめてお返しするなぞというのは、論外であると存ずる!」
 
 上杉係長言うところの返礼法は、石田係長のそれとは本質的に志を異にするが、お返しを分割実施することについては同じである。

 反乱だ。いや、謀反と言ったほうがカッコいいかも知れない、、、。生来の日和見主義者、新人の小早川ケンタはこの状況をすばやく分析した。

 ほとんど本能的といってもいいバランス感覚の持ち主である小早川は、会議が二分したこと、つまり一括お返し派の福島課長、加藤代理と分割お返し派の石田係長、上杉係長に分かれたことを誰よりも早く見抜いた。そしてこの対立が、多年企画室でくすぶっていた課長対係長という構図、すなわち保守派と改革派の対立関係も同時に明らかにしたのである。

 このような対立構造にあって意思決定を行う場合は、中間派がキャスティングボートを握ることになるが、この点で二人は甚だ頼りがなかった。新人の小早川ケンタにとっては、どのような形式でお返しをしようとも自分が買出し部隊に任じられるのは、明確であるから、一括、分割どちらであってもいい。
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