絵本王子と年上の私





 「さつきくん、お知り合いですか?」
 
 2人は驚きのあまりに固まっていたが、隣にいたスタッフに声を掛けられ、我に返った。
 しずくは、ゆっくりと白に近づき、白は「はい。」と、スタッフに答えた。

 「しずくさん、、、。」
 「白くん、なんだよね。」
 「、、、はい。」

 驚きのあまり、椅子から立ち上がってしまっていた白は、ゆっくりと椅子に座る。
 2人雰囲気で、何かあるのかと機転をきかせて、スタッフが「絵本を先生に渡してください。」としずくに声を掛けた。
 しずくは、焦りながら絵本をテーブルの上に置いた。頭の中が真っ白になり、しずくは今の状況をあまり理解出来ていなかった。しずくが好きで子ども達に読んでいた絵本。初めてのデートで白自身が気に入って買った絵本。その作家が白だった。
 疑問は沢山あるが、すべてが「どうして?」だった。
 1番しずくを切ない気持ちにしたのは、「どうして秘密にしていたの?」だった。


 目の前で、ペンをサラサラと踊らせて、綺麗にサインを書いていく。本当は「白さんへ」と、書いてもらうつもりだったが、それも必要のない事。
 なにも言わなくても「しずくさんへ」とさつき先生である白は書いてくれた。
 やはり、さつき先生は彼なのだと思い切った。

 「ありがとうございます。」
 「あの、、、さつき先生。」

 しずくが、彼をそう呼ぶと白はかすかに瞳を揺らした。そして、「はい。」と返事をした表情が今にも泣きそうになっているのに気づき、しずくはハッとし視線をを逸らした。

 「、、、さつき先生の絵本、大好きです。私も。」

 本当は「私も彼も大好きです。」と伝えようと思っていた。
 その用意した言葉もいらなくなった。
 これ以上、白の前にいるのが辛くなり、しずくは絵本を受け取って、部屋から出ようとした。

 「しずくさん!」
 
 白に呼び止められて、しずくはビクッと体を揺らした。
 ゆっくりと振り向くと、そこには泣きそうな顔ではなく、焦りを感じている表情の彼がいた。しずくが逃げ出そうとしていると思ったのかもしれない。

 「この後、約束通り会いましょう。どこかで待っててください。連絡します。」

 しずくは、頷くとパーテーションで区切られた空間からすぐに出た。白の視線から逃げるように。

 その時、しずくは気づいていなかった。
 参加券を絵本と一緒に白に渡してしまい、今もまだ白がいるテーブルに置いてある事に。

 そして、白は参加券をしずくが落としたのだと重い拾うと、もちろん後ろに書いてある物にも気づいたのだった。
 白は、思いがけない失態や驚きが同時に起こり、深いため息をついた。

 そして、白は裏にメモがされている参加券をポケットにしまった。



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