星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 当たり前のように手を繋いで歩く帰り道。

 家の前まで送ってくれた清瀬くんが言った。


「舞奈、土日会える?今度はがっつりデートしよ!」

「んー、でも勉強もしなきゃだしなー。考えとく」

「ん。また明日教えて」


 清瀬くんに手を振り、自宅の門を潜る。

 自分の部屋で机にバッグを置くと清瀬くんに貰ったくまちゃんが眼に入った。

 くまちゃんのほっぺを人差し指で撫でる。


(清瀬くん…)


『そんなとこも好きだけど』


 私を『好き』だと言ってくれる清瀬くん。


 そして清瀬くんのことを思うと、同時に脳裏に先生のことが閃く。



『当たり前だろ。

 教え子好きじゃない教師とかダメでしょ?』



 先生の言う『好き』は清瀬くんの『好き』とは別物の『好き』で─


 清瀬くんといると、私を特別な気持ちで好きでいてくれているのが分かる。

 それに、清瀬くんといると確かに楽しいんだ。


(このまま清瀬くんのこと好きになるのもいいかな…)


 一瞬、眼が合ってさっと逸らす女の子の瞳が頭の隅を掠める。


 けど…


 バッグのポケットから清瀬くんと撮ったプリを取り出す。
 そして、右のこめかみにそっと手を触れる。


 身勝手かな?でも、いいよね?

 今は、いいよね?


 愛されて幸せなはずなのに、心に住むのは今もあの人で…


 でもきっと、今日より明日、明日より明後日。

 少しずつその住人は清瀬くんに替わって行くはず。


 それなら、いいよね?


 顔をあげるとスクバに付いたくまちゃんと眼が合う。そしてくまちゃんが言う。


『あ、俺のこと好きになっちゃった?』


「ん。好きになっちゃった」


 清瀬くんにもこう応えられる日がくる。

 きっと好きになれる。


 だから今だけ。

 先生のこと忘れられるまで、身勝手でいるけど…ごめんね…

       *   *   *
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