星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 と、その時。


 ピンポンパンピンポン…


「!」


 先生のスマホがローテーブルの上で震えた。

 先生は私からちょっと離れて鳴っているスマホをちらっと覗くと

「大丈夫」

と言って、また私を抱き締める。


「え、でも…」

「大学時代の友達。大体いつもしょうもないことで電話してくる奴だから気にしなくていい」


 先生が両掌で私の頬を包み、自分の方を向かせる。
 同時にふっと電話が切れた。


「ごめん、南条」

「え?」

「俺、春まで待てないかも」

「せんせ…」


 先生の睫毛が切なく瞬いて、私に顔を寄せる。


「南条、す…」



 ピンポンパンピンポン…


「あ…」

 再びローテーブルでスマホが鳴った。

 でも先生は構わず額に額をくっ付けて私を覗き込む。


「先生、電話…」

「いいから。電話より俺、南条との時間の方が大切だから」

「……」


 至近距離で囁かれる甘い台詞に、否応なく心音が速められる。


「南条良い匂いする」

「ん…」


 鼻先が触れ、思わず吐息が漏れた。


 でも…


 ピンポンパンピンポン…
 その間も電話は鳴り続けている。


 頬に当てられた先生の手がそろそろと滑り、耳周りの髪を優しく掻き上げ、きっと赤く火照っているに違いない頬が露になる。


「可愛いな、お前」

「せんせ…」


 先生の掌が頭の後ろに廻り、引き寄せられる。


 ピンポンパンピンポンピンポンパンピンポン…


(ちょっと長いよね…?)


「…先生、ホントに大丈夫?電話」

「…あぁ」


 溜め息混じりに答えると、先生は私の髪から手を離しスマホを手に取った。


「…もしもし…そうだけど。


……え…?」


(…?)


 先生の声音が急に変わった。


「……」

 先生はスマホを耳に当てたまま黙り込む。


(何かあったのかな?)


「……」

 黙り込んだ先生の耳元で、スマホから「もしもし?もしもし昴?」と声が漏れている。


「…聞いてねぇよそんなの」

 ようやく先生が小さな声で呟く。


(先生?)


 しばらくしてスマホの向こうで

「また連絡するから、落ち着いて待てよ」

と男の人の声がした後、先生は

「…分かってる!」

と怒ったような口調で言うと電話を切った。


「…先生?」

「……」


 俯いた先生の瞳は栗色の前髪に隠れて見えない。
 でもその下に見える横顔が青白い。

 私はそれ以上声を掛けられなくて、ただおろおろと先生の様子を見守るしか出来ないでいた。
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