星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 カチャと小気味良い音がして鍵が開く。

「どうぞ」

 開けられたドアの向こうには久しぶりの先生の部屋。


「お邪魔します」

「ただいまでいいよ」

「え、じゃあ…ただいま…」


 背中でガチャンとドアが閉まり、玄関が翳る。

 と、同時に背中からぎゅっと抱き締められた。


「せ…!」

「お帰り、舞奈」

 優しく温かな、それでいて力強い抱擁。


「先生…」

 私の身体を包む腕を抱き締め返す。


 すると、

「…なぁ。お前いつまで俺の生徒でいるつもりなの?」

先生が首筋に顔を埋め、吐息混じりに訊ねた。


「え…?」

「その『先生』って呼び方、ずっと気になってるんだけど」

「あ…」

「高校を卒業した舞奈は俺と大人の恋愛をするつもりなんだと思ってたんだけどな」

「……」

「どうする?」

 先生が長い睫毛を少し伏せ、切なげな流し目で視線を投げる。


「……

…昴…く、ん」


 先生は私の肩を抱き寄せ自分の方を向かせると、するりとボストンバッグを落とす。そして…


「きゃ…」


 腕の中に閉じ込めるように強く抱き締めて、唇を重ねた。


(昴くん…!)

 温かな唇から伝わる愛の実感に胸がときめく。

 先生─昴くんはまるで何かを探すみたいに微妙に角度を変えながら私の唇に小さな口付けを落とす。小鳥が啄むように。
 少しくすぐったいようなその感覚は、優しいのにそれでいてどこか誘惑的で。


「すば、る、く…」


 焦らすような小さなキスは、腕の中にいるのに口付けを交わしているのにどこか歯痒い。それでも昴くんは幾度もそれを繰り返す。


(もっと…もっと強く愛して…)


『大人の恋愛』─

 昴くんの言ったフレーズが頭の片隅を閃いて、私のボルテージを上げる。


 私の手からスーパーの袋が落ちた。自由になった手を昴くんの背中に回して力いっぱい抱き締める。


 もっと熱いキスが欲しいの…

 ねぇ?だって私たち…

 大人の恋をするのでしょう?─


 昴くんのシャツを握り締め、引き寄せた。
 柔らかな感覚が次第に熱を帯び始める。


「舞奈…」


 昴くんの私を呼ぶ掠れた声を飲み込むみたいに私は唇で昴くんのそれを食んだ。そして舌先でそっと触れる。


 大人の恋って、どうしたらいい?
 でも、いつも『先生』から教えてもらうばっかりだから、ねぇ?今日は私から昴くんを溺れさせたい─
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