星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 岩瀬がさっとプリント類を抱えてドアに手を掛け、私は渋々その後に続こうとした。


 その時、


「あ、南条、こないだの本どうした?読んだか?」


 不意に先生が私を呼び止めた。
 いつになくキリッとした先生の声。


「あ、はい。あの…半分くらい」

「ちょっと時間あったら話聞かせてくれない?」

「はい!大丈夫です!」


 私が答えると、岩瀬が

「じゃあ先に行きますので」

と部屋を出て、足音が遠ざかっていった。



「はぁーっ!」

 私は大きく息を吐いた。

「くくっ!」

 それを見て先生が堪えきれないように笑う。


「なぁ、さっきの岩瀬先生の説明分かったか?」

「全っ然!」


 私がかぶりを振ると、先生はまたぷっと吹き出した。


「分かんなそうな顔して頷いてんなと思ったらやっぱりだ。ちょっと見せてみ?」

 先生は可笑しそうに手招きをする。


「これなんだけど…」


 私は先生の隣の椅子を引いて座り、問題集を広げる。


「どれ?」

 先生が少し私の方に身体を寄せた。


(!!)


 すぐ傍に先生の気配を感じる。
 心臓の音は急激に高鳴り、先生に聞こえてしまいそう…


「あーなるほどね。じゃあ…ここに線引いて、前半と後半の二文に分けてみようか?」

「あ、これなら後半は分かる」

「じゃ後半訳してみて?」

 私が後半の訳文を読むと、先生が大きく頷いてくれる。


「次は前半。こっから後ろを一括りにして…」

「toの文にするんだね?」

「そう。南条優秀じゃん」


 先生が微笑む。


 ちょっと考えてから全訳を言う。

 すると、先生は


「良くできました」


と頭をぽんぽんと撫でてくれた。


「!」


 どうしよう。
 先生が触れた頭の天辺があったかくて、どきどきしている。

 頬がものすごく熱い。

 多分私、今顔真っ赤だ。
 先生に気持ちがバレちゃうかも…


 先生は私の顔を覗き込んで、またふふっと笑った。

 栗色の髪の間から見える優しい瞳に、更に胸がドキンと鳴る。


 何か言わないとますます赤くなってしまいそうで、慌てて話題を探す。
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