星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「なんか急に暗くなるの早くなってきたな。南条、そろそろ帰れよ?」


 ぐるぐるしている私をよそに、窓に近寄った先生がブラインドの隙間を指で少し開き、外を見ながら言う。


「…まだ大丈夫だよ」


 ぐるぐるさせるだけさせといて『帰れよ』なんて意地悪すぎる。

 なのに先生は更に私をぐるぐるさせるんだ。


「心配だから」


(あ…)

 先生が真剣な眼で私を振り返る。
 じっと私を見つめる鳶色の瞳が幽かに甘く揺れて、私の胸をきゅんとさせる。

 もう、これ以上ないってくらい顔が熱いよ…



「親御さんが」



「…え…それ…?」


 今日の先生、間違いなく悪魔…



「なぁ、南条」

 渋々帰り支度を始めた私を先生が呼ぶ。

「ん?」

「俺、ご両親に会いに行こうか?」

「なっ、何!?藪から棒に!」


『好きだ』とか、『惚れちゃう』とか、『心配だ』とか、散々私をぐるぐるさせちゃうセリフ言って、その流れで更に『両親に会いに』なんて…

(それは何か『お嬢さんを僕にください』的な…?)

 変な期待をしてしまう─



「ほら、前にも言ったろ?やりたいことを見付けてもご両親が認めてくれない時は一緒に話しに行ってやるって。
 覚えてない?」

「あ…」


 夏のあの日。

 校庭を駆ける風と先生の体温が熱かったあの時。

 先生は言った。


『俺、一緒に話しに行ってやるよ』


 忘れてたわけじゃない。
 本気にしてなかったわけでもない。

 けどあの時、全てが夢のようでリアリティがなくて…


「頼っていいんだよ?俺のこと」


 先生が机越しにずいと身を乗り出す。

 机に突かれた大きな手。
 包み込むような眼差し。

 いつも可愛いと思ってたのに、最近の先生は私にとって凄く大人の男の人で、カッコ良くて。

 どこまでも甘えてしまいそうになる─



けど…


「…ん、大丈夫。もうちょっと頑張ってみる」


 私が決めたんだ。

 こうしたい、こうして生きたいって。

 全部全部先生に頼っちゃダメだ。


 どうしても困った時先生は支えてくれる。

 だからそこまでは自分でやる。


「そうか」


 先生はそう言って優しい眼差しでにっこり笑った。

       *   *   *
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