次期社長と訳あり偽装恋愛
「なぁ、梨音。昴に彼女が出来ることは考えてなかったのか?」
「えっ?」
不意にお兄ちゃんにそんなことを言われ、私の思考回路は停止した。
今、お兄ちゃんは何て言ったの?
昴くんに彼女が?
嘘でしょ……。
お兄ちゃんは冷ややかな視線を向けてくる。
「お前が昴のことを好きなように、昴にだって好きな人がいてもおかしくないだろ。お前を中心に世界が回っている訳じゃない。梨音、自分の気持ちを他人に押し付けるばかりするな。ハッキリ言って昴にとってお前の気持ちは迷惑でしかない。もう未成年じゃないんだろ。だったら自分の行動に責任を持てよ」
「おい、響也。それは言い過ぎだろ……」
昴くんじゃない、もう一人の男性の声が聞こえた。
迷惑……。
お兄ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。
自分のことしか考えてなくて昴くんに彼女が出来るなんて思いもしなかった。
「昴くん、彼女……いるの?」
震えながら聞くと、昴くんは気まずそうに私から視線を逸らして口を開く。
「えっ、いや……。まぁ、ね」
「そっか……」
ヤバい、泣きそうだ。
でも、こんなところで泣く訳にはいかない。
私は財布から千円札を取り出してカウンターに置き、立ち上がった。