次期社長と訳あり偽装恋愛

舞と昴くんと別れ、駅に向かい電車に乗った。

バーでの席が昴くん、私、舞という並びだった。
カップルの間にいるのはムズムズし、お邪魔虫は早々と退散することにした。
笑顔で別れ、またみんなで食事にでも行こうという話まで出た。

ふふ、あの二人が付き合ってるなんて……思わず笑みがこぼれる。
大切な親友と昔好きだった人。
不思議な縁だ。
心から二人の事を祝福できるのは、私のトラウマが癒えている証拠だと思う。

今回、昴くんと話が出来てよかった。

最寄り駅に着き、電車を降りる。
ホロ酔い気分で街灯に照らされた道を歩いていたら、マンションの前に男性が一人立っていた。
誰か待っているみたいだけど……ってどうして?
男性の姿を見た瞬間、立ち止まった。
でも、私の身体は吸い寄せられるように再び歩き出す。
徐々に近くなる距離、私に気付いたその人は少し表情を緩めた。

「おかえり、河野さん」

「立花さん……まだ海外にいるはずじゃ」

ホワイトボードには来週までとなっていた。
久しぶりに立花さんを見て胸が高鳴ってしまう自分がいる。

「向こうでの仕事が早く終わったんだ」

あの医務室での出来事を忘れた訳じゃない。
私から偽装恋愛解消を言い出した手前、どういう表情で立花さんと接すればいいのか分からない。

「あの、どうして……」

「君に話があったから待ってたんだ」

立花さんの言葉に私は息をのんだ。
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