次期社長と訳あり偽装恋愛

「高柳、忘れ物したから取りに行ってくる」

「分かった」

私が会議室のドアを閉める直前、そんな会話が聞こえた気がした。
さっき閉めたはずのドアが開き、立花さんが出てきた。

「ぼーっと立てっていたら邪魔になるよ」

驚いて動けずにいた私の肩をポン、と叩く。
ハッとして周りを見ると、会議室に入ろうとしていた人がいるのに気づく。

「あっ、すみません」

その人に謝罪し、慌ててドアの前から離れる。

「大丈夫ですよ。それより、立花課長は入られないんですか?」

「ちょっと忘れ物をしたんだ。小松は先に入って資料に目を通しといて」

「分かりました」

小松と呼ばれた人は小さく頭を下げて会議室の中へ入っていった。
企画部のフロアへ戻ろうとしたら、私を呼び止める声が耳に届いた。

「ちょっといい?」

「へ?」

いきなり立花さんに話しかけられ声が裏返る。
手招きされてあとを追えば、立花さんは休憩スペースへ入っていく。
そこは誰もいなくて二人きりの空間になる。

「あの、何か?」

「少し充電させて」

そう言って身体を抱き寄せられ、一気に体温が上昇する。
まさか会社で抱き締められるとは思わず心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
しかも、誰が来てもおかしくないような休憩スペースでこんなこと!

ふと、この場所で壁ドンされ額にキスをされたことを思い出す。
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