次期社長と訳あり偽装恋愛

ペリエでカラカラになっていた喉を潤す。
立花課長にお酒を勧められたけど、全力で断った。
立花課長は運転するからお酒を飲まないのに、連れてきてもらった私だけ飲むなんてことは絶対に出来ない。

一息つき、少しだけ緊張もほぐれてきた。
仕事をしていて、お互いに顔や部署は知っているけど、よく考えたら他のことは何も知らない。
改めて軽く自己紹介した。

「立花課長は私の五歳年上だったんですね」

「正確には来月の誕生日で三十になるんだけど」

「そうなんですね。私には兄と妹がいるんですけど、兄と同い年ですね」

「そうだね」

そう言って立花課長は頷いた。
てっきり二十九歳だと思っていた。
五歳年上といえば私のお兄ちゃんと同学年になるんだけど……。

私は三人兄妹の二番目だ。
五歳上に兄の響也、二歳下の妹の柚音がいる。

みんな社会人になり、滅多に会うことはない。
お正月に実家で会うぐらい。
妹とは女同士ということもあり、連絡は取り合っている。
お兄ちゃんとは五年前にちょっとしたことがあり、会うのは気まずいというか出来れば会いたくない。
だから、お兄ちゃんがいない時を見計らって帰っている。

そのお兄ちゃんは密かに会社で“鬼部長”と呼ばれているらしい。
学生の頃は、そっけないくせによくモテていて、バレンタインには女の人が家まで来ていたこともあった。
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