次期社長と訳あり偽装恋愛

「そんな可愛い反応されると困るなぁ」

「か、可愛い反応って……」

「恥ずかしそうに目を逸らしたり顔を真っ赤してたらもっと構いたくなる」

そう言うと、立花さんは一歩前に歩み寄り私の背後にある壁に手をついた。

これって壁ドン?
どうしてこんな状態になっているんだろう。
間近に立花さんの顔が迫ってきて身動きひとつ出来ない。

「ホントに河野さんは可愛いね」

目を細めて優しく笑い、私の額に唇を押しあてた。
えっ?

「じゃ、仕事頑張って」

私の頭をポンポンと叩き、その場を後にした。

残された私は呆然としてしまった。
壁ドン、額にキス、頭ポンポン……少女漫画に出てくる萌えのトリプルコンボを立て続けにされ、ドキドキが止まらない。

ハッとして休憩スペースの周りを見回すと、誰もいないことを確認し安堵する。
誰にも見られてない、よね?
何か分からないけど、悪いことをしてしまった気分になる。

そういえば立花さんは休憩スペースに何しに来たんだろう。
自動販売機で何かを買うでもなく、休憩する訳でもなかったし。
たまたま休憩スペースに私がいたのに気づいて立ち寄ったのかな。

そんなことより、どういうつもりで私にキスしたんだろう。
額にだけど。

いくら考えても答えは出ない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、自動販売機で紅茶を買って企画部のフロアに戻った。
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