次期社長と訳あり偽装恋愛
「今日も立花さんが手作り弁当を食べてましたよ」
感慨に浸っていたら、社員食堂から戻ってきた友田さんが話しかけてきた。
数日前、立花さんが社食で手作り弁当を食べていたという噂は一気に広まった。
そして、立花さんに彼女ができたということも。
そのことでショックを受けている女子社員もいて゛立花ロス〝になっているとかいないとか。
当の本人は気にする様子は一切なく、私が作ったお弁当を今日も変わらず社食で食べている。
高柳課長が「アイツは策士だ。これ見よがしにみんながいる前で弁当を食べて彼女がいるアピールして、これ以上女子社員が言い寄ってこないように仕向けてる」と言っていた。
彼女が出来たと社内に広まっても立花さんは問題ないと言った。
ということは、立花さんの気になる人は社内の人ではないということになる。
だから私と偽装恋愛してもその人に知られることはない。
このメリットがあったから私にあんな提案をしたのかと、ようやく腑に落ちた。
「立花さん、彼女の前だとどんな感じなんだろう。プライベートの立花さんは想像できないなぁ。梨音先輩はどう思います?」
「えっ、どうだろう。私も想像できないかな……」
そんな話を私に振らないで欲しい。
「やっぱり謎ですよね。彼女に甘えたりするのかな?」
「ほら、そんなことはいいから仕事しなよ。机の上、また汚れてるよ」
「はーい」
一度、机の上が汚くて失敗していることもあり、私が話題を変えると友田さんは素直に返事をした。