次期社長と訳あり偽装恋愛

「宮沢、この前の企画書読んだけど新鮮味が足りない。もうちょっと工夫してみろ」

「はい、分かりました」

高柳課長から企画書を返され、宮沢は肩を落としている姿が視界に入った。
私は思わずパソコン入力していた手を止めた。

同期でもあり、ライバルでもある宮沢。
相手の企画が通れば悔しいけど、嬉しくもあり、私も頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
お互いに切磋琢磨しあえるような存在だ。

自分の席に座った宮沢に「ドンマイ」という意味を込めて、イチゴのチョコレートをひとつ、机の上に置いた。

「サンキュ」

宮沢はチョコの袋を開け、ポイッと口の中へ放り込み、頬杖をついて企画書をじっと見つめている。
そして、それに赤ペンで大きくバツを書いたあと、グシャグシャにしてゴミ箱へと放り投げた。

「ちょっと頭をリフレッシュしてくるわ」

宮沢は立ち上がると企画部のフロアを出て行った。

その後ろ姿を複雑な気持ちで見つめた。
私も同じ経験を何度もしているから、宮沢の悔しい気持ちはよく分かる。
ホント、日々精進が必要だと思い知らされる。

だけどこれで挫ける宮沢ではない。
絶対に次はいい企画を考えてくるから私も負けていられないといつも思う。

「河野さん、会議の資料出来た?」

「すみません、あともう少しです」

「分かった。出来たら教えて」

「はい」

高柳課長に聞かれ、ハッとして答えた。
ヤバイ、人のことを気にしている場合じゃなかった。
慌ててさっきの続きに取りかかった。
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