次期社長と訳あり偽装恋愛
モスコミュールのグラスが空になり、私はジントニックを注文した。
「舞、お酒は飲まないの?」
「あ、うん。この後、家に帰って電話したいから」
ポッと頬を赤らめて言う。
誰に、なんて聞かなくても分かる。
ていうか、もしかして両想いなんじゃないの?
絶対に向こうも舞のことが気になってるよね。
「あー、もうごちそう様。じゃあ、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「梨音はどうするの?」
「私はもう少し飲んで帰るよ」
「そっか。じゃあ、先に帰るね」
「上手くいったらまた報告してね!」
「出来るように頑張る」
舞は支払いを済ませ、バーを出て行った。
ひとりになり、頬杖をつく。
舞は私の失恋のことを知っている。
だから、私に対してそういった方面のことは聞いてこない。
今回も自分の話だけするのは気が引けるとか思ったのかも知れない。
だけど、親友の私に聞いてもらいたかったんだろうなというのが伝わる。
そんな優しい舞の恋が実りますように……。
ジントニックの入ったグラスをコースターの上に置きながら朔ちゃんがしみじみ呟く。
「それにしても、梨音が来るのは何年振りだろうな」
「五年だよ」
最後にここに来たのが私が二十歳の誕生日。
片想いしていた人にフラれた日だ。