次期社長と訳あり偽装恋愛

「この時期に風邪か?」

出社してきた宮沢が何か言いたいことを含んだ笑みを浮かべ私を見る。

「何よ、どうせ夏風邪を引くのはバカだって言いたいんでしょ」

「別にバカとは言ってないだろ」

ニヤニヤしながら席に座る。
その顔が言ってるんでしょ!とは思っても、言い返す元気もなくてため息をつきスルーした。

「おいおい、河野が言い返してこないとかマジで大丈夫か?」

からかうように言う宮沢を無言でジロリとひと睨みして、届いたばかりのデザイン案に目を通した。

***

「高柳課長、二番にミキモト文具店の内藤さんからお電話です」

「えっ?どうしたの、その声。朝より酷くなってるんじゃないか?」

内線を回すと、受話器越しに高柳課長が驚きの声を出す。

「すみません、聞き取り辛いですよね」

「いや、そんなことはないけど大丈夫か?これ以上、酷くなる前に早退した方がいいと思うけど」

「ありがとうございます。区切りのいいところまで仕事を進めてから早退させてもらいます」

「それがいいよ。二番にミキモトさんだね」

そう言うと高柳課長は電話を切り替え、私は受話器を置いた。

私の風邪の症状は、昼過ぎて酷くなる一方だった。
当然のように食欲はなかったし、少し熱っぽい感じがし、咳も出るようになった。
全然集中できなくて仕事にも支障が出てきたので、早退させてもらうことにした。
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