血だらけペガサス

「あ、体がうごかない!」

と、気がついたのは、
時計の針が、夜中の2時をまわった頃だった。


いつものように、
白馬の王子様が、わたしを迎えに来てくれる妄想をしながら、

幸せになれる日を、夢に見ながら
昨日は眠りについたのだった。

まさか、「金縛り」になるなんて思っても見なかった。


まず最初、体がしびれた。
ジリジリとした嫌な感覚で、


こんな夜中に目が覚めて
体が、ぜんぜん動かないことに気がついて、


怖くなって、お母さんを呼ぼうとしたけど
声が出なかった。


いや、全く声がでないわけじゃなくて、うまく声が出せないんだ。


「ああー」
とか
「ううー」
とか


そういう力の無い、か細く弱々しい声なら出るんだけど、
違う部屋いるお母さんに聞こえるなんていうことはなかった。


体を動かそうと思っても、動いてくれない。

そのうち、部屋の窓が音もなく開いて、そこから顔が出てきた。

血だらけの顔だった。
怖い顔をしている。

思わず目を瞑った。


わたしは、『金縛り』というのが夢であるということを知っていたから、早く覚めろっ!と思った。

覚めろっ! 覚めろっ! 覚めろっ! 覚めろっ!
覚めろっ! 覚めろっ! 覚めろっ! 覚めろっ!


でも、体は起きてくれなかった。

大声をあげようと、息を吸い込もうとした。でも、うまく呼吸ができない。


窒息している訳じゃないから、
死ぬほど苦しい訳じゃないけど、すごい圧迫感だ。


なぜだろう。
わたしは目を瞑ったはずなのに、回りの景色が見えてしまう。


そっか、夢だから、目を瞑っていても、見えちゃうんだ。
そんな、金縛りの恐ろしさを痛感した。


気づけば顔だけじゃない。黒い髪の毛とか、黒い人、大きい人、手足が異様に細い人、バランスが変な人。


たくさんのオバケがわたしを囲んでいる。
これは夢なんだから、怖くないっ!


って念じてみても無駄だった。
わたしはあまりの恐ろしさで、壊れてしまいそうだった。


その時だった。



「おやおや…………血だらけペガサスのしわざかな?」



耳元で、誰かが囁いた。


わたしは、ビックリして、全身の血が逆流するかと思った。
ハッキリと聞こえた、男の人の声が。


でも、さっきまでのオバケ達とは違って
とても甘くて、安心感のある声だった。


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