血だらけペガサス

「心配になったかな? お嬢さん」
彼はそんな事を言いながら、フフフと笑った。


その笑い方を見ていると、なぜだか心が安らいだ。

依然として、体は動かなくて、声も出せなかったけど、

今はそれでもいいかな、と思う。


金縛りがとけてしまえば、もう目の前にいる人とは会えなくなってしまうと、感じていたからだ。


現実の世界には、こんな綺麗な顔立ちをした
こんな清らかな人は…………たぶん、いない。


この、つかの間。一瞬の金縛りをもっと感じていたい。
心の底からそう思った。

「……お嬢さん。悲しい顔してますね」
男の人が口を開いた。


「………君はもうすぐ目を覚ます。体が動くようになって、解放されるんだ。」


「ええっ」
心の声が、胸に反響している。


「さあ。お嬢さん。現実の世界に戻ったら……………………


『ちぎれた思い出』


という場所に向かってごらん。
きっとそこに俺はいる。


俺はそこで待っている」






彼が消える。

わたしの体が、また元に戻り始める。

< 4 / 37 >

この作品をシェア

pagetop