血だらけペガサス
「心配になったかな? お嬢さん」
彼はそんな事を言いながら、フフフと笑った。
その笑い方を見ていると、なぜだか心が安らいだ。
依然として、体は動かなくて、声も出せなかったけど、
今はそれでもいいかな、と思う。
金縛りがとけてしまえば、もう目の前にいる人とは会えなくなってしまうと、感じていたからだ。
現実の世界には、こんな綺麗な顔立ちをした
こんな清らかな人は…………たぶん、いない。
この、つかの間。一瞬の金縛りをもっと感じていたい。
心の底からそう思った。
「……お嬢さん。悲しい顔してますね」
男の人が口を開いた。
「………君はもうすぐ目を覚ます。体が動くようになって、解放されるんだ。」
「ええっ」
心の声が、胸に反響している。
「さあ。お嬢さん。現実の世界に戻ったら……………………
『ちぎれた思い出』
という場所に向かってごらん。
きっとそこに俺はいる。
俺はそこで待っている」
彼が消える。
わたしの体が、また元に戻り始める。