God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
「ちったぁ普通に仲良くしろよ!」
「45歳、怒り収まらず」
「それで呟いたつもりか。しっかり聞こえたぞ」
俺は力任せ、紙くずをゴミ箱に投げた。
絵に描いたような八つ当たりだ。うるせぇ。
奴らの言い争いを、右川は終始冷静に眺めた。というか、お菓子を食べながら、見物していた。今も、チョコレートの甘い匂いを振り撒いている。いつもの光景だが、それが今は憎憎しい。
「あたしらのケンカ見てたヤツらも、うんざりしてたんだろうね」
「誰にも迷惑かけてないぞ。俺は」
「それを言っちゃーだよ。君がぁ」
「あ!?」
右川がびくん、と反応。
このチャンスに、俺は言いたい事を言うぞ。
「今まで全部が全部、言い争いの原因は、主におまえ。ていうか、全部おまえだし」
「って、おい。まさか自分に罪は無いとか思ってる?んな訳ないでしょ。あたしがこうやって色々関わるようになったのは、元はと言えばあんたのせいなんだから」
「おまえがもうちょっと素直だったら、ケンカも無くて、スムーズに行けたと思うけど」
といって、このまま続けたら、マジでいつものケンカになる。
その危険を感じた俺は、話の腰を折るべく、右川がつまんだチョコレートを横から奪った。
右川は、特にそれに関しては何も言及しなかったものの、俺が放り投げたゴミが箱を逸れて転がると、「まるでゴミすらも俺様を見放したか……なんちて♪」と、芝居掛かって憎憎しい事を言う。
右川が投げた包み紙は、何の迷いもなくゴミ箱に飛び込んだ。
俺はまた、紙くずを拾って投げた。それがまたしても、ゴミ箱から反れて。
「ほらぁ!」と、右川はドヤ顔で有頂天。
何だろう。
全てが、鬱陶しい。フザけるのも、いい加減にしろ。
そんな文句を声に出したら最後、またいつものように始まってしまう。
始まってしまう。
始まってしまう。
俺は立ち上がった。
多分、反れた紙くずをどうにかすると思い込んでいる。
右川は脳天気に、次のお菓子を開いた。感付いていない。無防備にお菓子を頬張って、その片手はプリントを取り出す。
「あ、食べる?」
差し出すお菓子に手を伸ばす振りで、俺はその腕を強引に引き上げた。
右川がバランスを崩して椅子から転げ落ちると、俺はそのまま、地面に押し倒す。「痛ったい!」と悲鳴が上がった。大袈裟な。
いつかのように、首筋から攻めた。右川は、精一杯の抵抗なのか、両手で体を押し上げてくる。当然というか、ビクともしない。
「重いっ!」
右川は左腕を振って暴れる。まるで、邪魔なハエでも追い払うみたいに。
俺はそれを手で払いのけると、ブラウスの襟元をこれ以上は無理という所まで広げた。ボタンが飛ばなかったのが不思議なくらいだ。
このまま、どこまで進めるだろう。
この放課後。恐らく、しばらくは誰もやって来ない。
こないだのように、誰かの声が聞こえるその時まで……リミッターを設定した途端、もう疼いてくる。
冬服が、ブラウス1枚までもが邪魔だった。スカートを押えて、それを引っ張り上げたら、右川が張り手を喰らわせてくる。こっちが怯んだ隙に、「もう嫌だ!」と、右川は生徒会室を飛び出した。
確かに、ちょっと踏み込んだかな、とは思ったけど。こないだのあれを思えば、もうちょっとその先は許容範囲だとして受け止めてくれる。
そう思ってた。
「ごめん!マジで!」と、その背中に向かって訴えても、「そんなの知るかっ!マジで!」と、右川はブラウスをスカートにねじ込みながらも、全力疾走が止まらない。
追い付いた先は、3年5組。俺達のクラス。
「アタマおかしい!勉強のし過ぎなんじゃないの!」
「ちゃんと謝っただろ!」
「謝った!?うわ、ダせ。恥ずい!ポンコツ!みじめが伝染るから、あっち行け!」
あらん限りの悪口雑言に、こっちの血管がキレ飛んだ。
俺は目に付いた物を鷲掴みにして、振り上げて。
その時だった。
「いい加減にしろーーー!!」
大声を炸裂させたのは、黒川だ。
部活でも滅多に聞けない大爆発。何かの間違いではないか。
驚くを通り越して、軽く混乱する。
目が覚めた。
というか、俺はそこで周囲の状況を把握した。
文化祭の準備、真っ只中。そこら中に紙とペンが散らばる。
書きかけのポスター上を、右川は土足で踏みつけ、俺が振り上げたマーカーと思しきそれは……マーカーはマーカーなのだが、蓋が外れて転がって、そこら中の模造紙を不可解な模様で汚してしまう。
「おまえら、ガッコでいちゃいちゃSEXこくのもいい加減にしろ!」
まさか今までの一部始終を黒川に見られていたのかと……右川も同じ事を考えたに違いなかった。お互い顔を見合わせて、青くなる。
「いっつもじゃねーか!ちったぁ普通に仲良くしろよ!どうせ最後にモノ投げて終わりだろ!?余所ですっきり出してくれよって!こっちが面倒くせぇんだよ!」
周囲は冗談半分、「あーあーあー」と呆れて苦笑い、そして俺達に向けた非難をゴチャ混ぜにして、あちこち目を泳がせた。
誰かが、下を向いたままプッと吹き出すと、それを合図に、「やだぁ、もう」「あんた、それしか言わないの?」「てか、クソチビで想像できねーワ」「したくねーし」次々と、周りからジャブを喰らう。
そういう意味か。深読みし過ぎた。
いや、やらかしてしまったあれこれを思えば、恥ずかしさが込み上げる。
「おいおい」と、ノリからは微妙な肘鉄を食らった。呆れたと思いやりをゴチャ混ぜがノリらしい。
「こっちはおまえらの分も準備してやってんだよッ。邪魔すんなッ」と、永田の正論も痛かった。
俺がバラ撒いてしまったマーカーを、脇で女子が拾い上げている。
俺もそれに並ぶ。
「くまもんのクッキー、食べる?」と恐る恐る差し出したお菓子を、「は?」と冷たい視線で進藤にあっさり無視された右川だったが、それで大人しく引き下がる訳もなく、「あ、ねーねー♪これ。捨ててこよっか?」と罪滅ぼし、ゴミの後始末を買って出ていた。
「謝れぇ~」「オゴれぇ~」と、ぼんやり責められながら、ゴミ箱と一緒に右川は教室を出ていく。
去り際、俺に向かってじーっと睨みを利かせていた。
俺が全部悪い。右川をストレスのはけ口にしていた。酷い彼氏だ。
どうしてこういう時、冷静になれないんだろう。
……こないだの模試なんだけどさ。
酷い言い訳しか浮かばない。
< 11 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop