God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
文化祭2日目~戦う女・〝Fighting Hand〟・自動的スイッチ
文化祭2日目。
最終日。
サークル団体・双浜情報会が主催。
〝校内一周の旅〟
これが思いがけず好評だと聞く。
現PTAは勿論、将来ここを受ける中学生が熱烈参加……かと思いきや、3年生が殺到。最後にあそこに入ってみたい!というリクエストに応えて、校長室・事務室・今まで無関係だった部室・旧倉庫(俺も入ったことない)を巡っているという。
何の事件も事故もなく、進行している。それだけが救いだ。
去年と違って、吹奏楽とバスケの小競り合いも、愚痴程度で済んでいるし。永田も重森も、やけにおとなしい。平和な文化祭……。
1度だけ1年フロア・3組の集金所に顔を出すと、浅枝がいた。
お手伝いだという2年生女子が、ニコニコとお菓子やら飲み物やらを出してくる。「俺はいいよ」と、断ったけど、せっかく出してくれたものを無碍にするのも悪いと、ありがたく頂いた。
(浅枝は無言で受け取った。)
そこへ、昨日と同じ浴衣姿で、波多野が来た。こっちに意味深な目線を飛ばしてくる。口止め料……俺も、同等の脅しを目線に込めた。
「波多野さーん、数こなしてるのは良いけど、女子が足りなくて放っとかれる男の子が増えてるよ。これだと飽きてこない?男子は上手くコントロールしてるみたいだったなぁ」
浅枝は、まるで台本があるかのように、女優よろしく、のたまった。
波多野は、入れ違いにやってきた桐谷をニラんで、消える。
その桐谷には、
「大人って、お金が絡むとシビアだね。女子んとこ、さっきから男子高の生徒がひっきりなしなの」
「やっぱ女子力って大事なんですね」と、お手伝い女子がそれに同調。
それを聞いて、震えながら戻る桐谷を、浅枝は悪魔の微笑で見送る。
次世代のリーダーの本質を見たような……何だろう。
寒くもないのに震えがくるような。
そういえば、やっぱり右川を見ない。
最後の文化祭。それは少し寂しいなと思っていたら、思いが通じたのか、向こうから右川が現れた。
「あとはチャラ枝さんに任せてさ。2人で色々見に行かない?」
にっこりと笑う。
これは雪解けの合図か。仲直りか。
いつの間にか、可愛気まで身に着けて。
いい顔してる。
戦う女の顔だと思った。

野郎のデスボイスが目立つ、〝前前前世〟
ほぼ半分は口パクの、〝第九・歓びの歌〟
という、失笑モノの大合唱を披露した3年2組は、「最後だから弾けたい」と模擬店も展開していた。
あれ以上どう弾けるのか。見届けてやろうとばかりに、やって来る。
右川の友人、松倉が俺達に気付いて手を振った。
メイド服。多分、頭はカツラ。いそいそと手作りケーキを運んでいる。ていうか、そのサイズがよくあったもんだ。
「どーおー?」
松倉がくるりと回ってドヤ顔する。そこで思った以上の風が起こって、隣りテーブルの来客が目を丸くした。(俺も。)
「これはおごりだよぉ~」と、松倉がケーキを置いた。ジュースも。
「いや、払うよ」
「いいんだよ、右川から貰ってあるからぁ~」
それならと遠慮なく頂くとする。可愛気ありすぎて怖い。
当の右川は、廊下を通る2年生の移動販売ジュースに捕まっていた。
「ついでに、これ宣伝して♪」と、我ら5組でやっている演し物のチラシを渡す。「買うっていったのに、貰っちったよ」と、ジュースを持ったまま、俺の隣に座った。
そこへ、阿木がやって来た。
「最近、何をやっても眠いの。全然予定通りに進まない。ヤバいわね」
無表情で、いきなり泣き言を繰り出す。
「俺も何となく、しんどい」
スランプ。
言葉にしたら負けてしまう気がして、そのフレーズは使わないけど。
「アギングぅぅぅぅぅ~♪」と親指を突き出して、右川がオドける。「ささ。お座りになってぇ~」と熱烈勧められて、阿木も同じテーブルに着いた。
「同じコースの女子がね、山下先生に本気でイカれてるみたいよ」と、右川に投げかけて、「アキちゃんはお子様には興味無いもん。無駄だよ、それ」と、俺の反応を気にして大袈裟に普通を振る舞ってしまう右川の動揺とか、「だめだよ。今はもう不倫だよ、それ」と、だから自分はもうそこは何とも思ってないという事を俺に伝えたいという主張とか慌てぶりも含めて、阿木はその反応を楽しんでいる。
何て言うか、久しぶりの塾の話題だった。不思議と自然に笑える。
ストレス。
なんとか半分ぐらいは消えたかもしれない。
気が付けば、昨日から今日に掛けて、1年3組の事で頭が一杯、勉強の事を全然考えなかった。元より、もう受験辞めようかと思い始めた矢先、文化祭の喧噪に甘んじて流されるまま、頭が空っぽになる。それが良かったのかもしれない。発散できた……ような気もする。
単にそれだけの事だったのかと、そんなお馴染みの雑事にヤラれそうになっていたのかと……強引に結論付けてお終いにしたい。
本当に。そろそろ頼むから。
話題は、1年3組の事になった。
「アキラは1万円ぐらい財布から抜き取ればいいんだ」と、右川は忌々しそうに吹いた。
「ところで沢村くんは、いくら払ったの?」
「俺は確認に行っただけ」
スッとぼけて曖昧に答えておく。
2割増しの口止め料がどこまで通用するのか、試してやりたい。
「ね、うちら5組の様子を見に行かない?」
右川が引っ張るので(阿木もついでに引っ張られて)、3人で5組に向かった。

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