御曹司様の求愛から逃れられません!
しかし本部長は不機嫌にはならず、大きな手を伸ばして、テーブルに置いていた私の手を握ってきた。

「そんなこと言って、真夏だって俺に会いたかったくせに。……素直になれよ」

ぐ……。
悔しいけど、この人の妙な距離感のスキンシップには無条件で胸が鳴る。そして見透かされていることも。
この調子でずっと私をからかっているんだから、意地が悪い。

「そ、そうですね……すみません。会いたかった、です」

答えると、繋いでいる手に力を入れられ、顔の距離が少しだけ近付いた。

「俺が恋しかっただろ?」

「はあ、そうですね……って、もう!本部長!やめて下さいよ!酔うの早いんじゃ……」

「“本部長”じゃない、“絢人”だ。悪いがそこだけは譲れない。……俺とふたりきりのときは、“絢人”って呼べ」

彼が譲れないと言っているのだから、今日はそう呼ぶまで帰してもらえない、と容易に想像がついた。私がすぐに折れて「じゃあふたりきりのときだけですよ」と答えると、彼は満足気だった。
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