御曹司様の求愛から逃れられません!
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一時間ほど飲んで、彼の海外での仕事のことや今の私の近況をひとしきり話し終えると、絢人さんはおもむろに「よし、出るか」と言い出した。

予想外にお開きが早い。もっと長く拘束されるかと思っていたのに。
お会計、と思って「あ」と言ったが、絢人さんはウィンクしてからひとりで払いに行ってしまった。相変わらずキザだ。キザすぎる……。

「すみません、ご馳走さまです」

お店の外に出て頭を下げると、彼は「いいえ、お嬢様」と言いながら私の肩を抱いて歩き出した。
心臓が飛び出しそうになったが、彼は在学中も私によくこれをやっていたことを思い出し、なんとか冷静になる。

肌寒い夜だけど、絢人さんがくっついているから温かい。熱いくらいだ。
彼の隣にいると、どれほどすれ違う人の視線を集めながら歩いているのか実感できる。ただの飲み屋の通りがランウェイに変わるのだ。
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