御曹司様の求愛から逃れられません!
絢人さんは背もたれの手を、私の肩に回してきた。
指には少し力が入れられ、わずかに彼に傾くくらい引き寄せられる。

「美味しい?」

「ん、美味しい、です……飲みやすくて」

この距離は何?なんでこんなに近いの……?

少々混乱している。これは恋人の距離だ。
でも、私だけ恥ずかしくて熱くなっていると知られるのはなんだか嫌で、無理をして冷静を装った。

絢人さんは自分のグラスをテーブルに戻し、その空いた手を、私が持っているグラスの茎に添えてくる。

「これは誰にもらったワインだったかな……」

グラスと一緒に私の手の甲に触れ、それを揺らしながら呟いていた。彼の指先が無防備な肌をなぞる。誰に貰ったワインかなんてどうでもいい……絢人さんが近すぎて、何も考えられない。

「真夏、可愛くなったよな」

絢人さんはさらに追い討ちをかけて、今度はグラスを持っている手に指を絡ませてくる。硬直する私の手からグラスが滑り落ちる前に、侵入してきた彼の指先が代わりにそれを支えていた。

グラスと彼の手の間に絡まっているだけの私の手は、プルプルと震えてワインの水面を揺らしている。

「あの、絢人さんっ……」

肩にあったはずの手がするすると降りてきて、わき腹に到達する。
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