御曹司様の求愛から逃れられません!
「本部長!今、園川さんと何もないかどうかはまだ分からない、って……そう言ってましたよね?」

「ん?ああ、言ったね」

あんなに近づけないだの雲の上だの言っていたくせにさっそく絢人さんに絡み始め、彼も日野さんには笑顔で応える。

「園川って素直じゃないだろ?俺のこと好きだって認めようとしないんだ。俺の方からこんなにアプローチしてるのに。日野さんからも言ってやってよ」

「ちょっと!いい加減にしてください!」

音が鳴るように机を叩いた。
日野さんはすっかり目を輝かせ、私の牽制はお構いなしにさらなる質問を続ける。

「じゃあ、じゃあ、本部長は恋人とかいらっしゃらないんですね?園川さん一筋!?」

私はヒュッと勢いを失い、机を叩いた手にじわりと痛みが戻った。
……絢人さん、なんて答えるんだろう。“婚約者”はいる。この目でその姿を見たんだもの。

私は今度は遮らず、日野さんと一緒にその返事を待った。すると、彼は笑顔を崩さずに答えたのだ。

「そうだよ。そんな相手がいたら園川を口説けるはずないだろ?……園川一筋だよ」

日野さんは「キャー!」とはしゃぎ始めたが、私は何の反応もできなかった。ただ黙って、自信満々な絢人さんを呆然と見つめていた。

──“嘘”

私は信じられなかった。
彼がどんなに無茶苦茶で、強引な人でも別にいい。何度彼に振り回されることがあっても、絢人さんのことを人として尊敬していた。

でもその絢人さんは、こんなにも簡単に嘘をつく人だったのだ。誰かを傷つける嘘をつくような人だとは思っていなかったのに。
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