御曹司様の求愛から逃れられません!
「俺も社員食堂使ってみようと思ってさ。今日はちょうど予定もないし。どれがオススメ?」

質問に答える余裕はなく、まずはあたりをキョロキョロ見回した。時間が二時近いため、ほとんど人がいない。彼もこの時間を見計らって来たのだろう。

ソファ席の背後に誰かが立っている。そのメガネの男性は絢人さんの付き人のようだった。

「……あの、本部長、誰かお待ちですけど」

「ん?ああ、補佐の樫木(かしき)。俺のお目付け役。食事のときはついてこなくていいのにさ」

絢人さんはじろりとその人を睨んだ。ひっそりと立っているだけの樫木さんは、中指でチャッとメガネを整える。一瞬レンズが白く光り、いかにも“お目付け役”という雰囲気が出ていた。
若いけど厳格そうで、食事にもついてくるあたり、絢人さんのことをよく分かっている。ちょっとでも目を離せば、何をするか分からない人だもんね。

「君は日野さん、だっけ?」

「へ!は、はい!!」

絢人さんは向かいの日野さんのことをおもむろに指名すると、メニュー表を見せた。

「どれがオススメ?」

「え!え!……そうですね……ハーブチキン定食なんていかがでしょうか!」

「イイネ!それにしよう」

彼はパチン!と指を鳴らし、メニュー表を戻した。良かった、さすがにここで注文はしないみたい。今ので日野さんは完全にハイテンションとなり、目の前の絢人さんに釘付けになっていた。
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