御曹司様の求愛から逃れられません!
樫木さんも私に言われずとも分かっていたようだ。顔をしかめて、ばつが悪そうにメガネを上げると、コホン、と咳払いをする。

「……すみません。取り乱しました。貴女のことを悪く言ったのは確かに良くありませんでしたね。志岐本部長はあのように、どこへ行っても好かれ、人を惹き付けてしまう方ですから……付き合う女性に目を光らせておくように、と経営陣からも言われているのです」

「そうなんですか。……それはプレッシャーですね。憧れの人を牽制する役割というのは、とても大変で、悩むことも多いですよね」

私は自分の経験から自然とそう言っていた。「気を晴らしましょう」と言って途中になっていたビールを彼に勧める。
すると彼は、腫れた目を私に向けて、スッと細めた。

「……園川さんのそばにいると落ち着きますね。……志岐本部長の言ったとおりだ……」

「え?」

「いえ、何でもありません。……すみません。貴女のせいではありませんでした。焦って志岐本部長に聞き苦しいことばかり言ってしまった僕自身の責任です」

「ふふ、大丈夫ですよ。間違いを認めて素直に謝れば、絢人さんは絶対許してくれます。それに、降ろすだなんて本気で言ったんじゃないと思いますよ」

“本気で言ったんじゃない”
私は樫木さんを慰めるために使った言葉に、今度は自分が押し潰されそうになった。こっちこそ気晴らしが必要かも……。
ピーチのカクテルをごくごくと飲み干し、味のついたハイボールを次々に注文しては流し込んだ。

“絢人さん被害者の会”
私は秘かにこの飲み会をそう位置付け、境遇の似ている樫木さんと今日は遠慮なく楽しむことにした。

「よーし!樫木さん!今夜はじゃんじゃん飲みましょう!」

「そうですね!……って、園川さん、少しペースが早すぎませんか?」

「いいんですいいんです!パーッといきましょう!」
< 47 / 142 >

この作品をシェア

pagetop