御曹司様の求愛から逃れられません!
「……で、それで、どうなったんです?」

続きを尋ねると、彼の頬に流れる滝がさらに氾濫を起こした。今日一番の悲しそうな顔で、向かいの私の両肩を掴み、ガクガクと揺らしてくる。

「そしたら!志岐本部長が!この僕を!ずっと目をかけてくださったこの僕のことを“降ろす”と言ったんですよ!園川さんのことを悪く言うならもう一緒に仕事をしたくない、と!今日も“帰れ”と言われて……この僕が、志岐本部長に追い出されたんですよおお!!」

持っていたカクテルが飛び散り、中身が透明だったが蒸せるほどのピーチの甘い香りに包まれた。

「ちょ、ちょっと、樫木さん……!」

「なぜ僕がこんな目に遇わなければならないんだ!僕ほど志岐本部長のことを考えている人間はいないのに!」

あまりに偏った考えに圧倒されたが、これも絢人さんマジックなのかと思うと恐ろしくなった。
でも、私への厳しい態度は、すべて絢人さんのためだったというわけか。理由が分かると、彼と話をする突破口が見えてきた。

「そりゃ、そんなこと言ったら本部長怒りますよ」

「なんだと!?」

「本部長って、悪口とか大嫌いじゃないですか。それが誰のことであっても。私がいくら馬の骨だろうと、悪く言ったらダメです。そういう人ですから。……ふふ、本当は樫木さんだって、よく分かってますよね。今の本部長のこと、私よりよっぽど知ってるんですもんね」
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