御曹司様の求愛から逃れられません!
樫木さんはなぜか、その手をとって握り返してくる。それは甘い感触ではなく、「しっかりしろ」と言われている気分になるほど、強くて痛い。

「樫木さん……?なんですか、もう……」

「聞いて下さい!貴女は勘違いをしています!あの人は……っ」

樫木さんはそこまで言うと、途中で言葉を飲み込んだ。急に話が途切れたので彼を見上げると、真っ青になって震えている。
……何?どうしたの?

彼の視線はまっすぐ前を見つめていたので、私も同じ方向へ目をやった。
それは私の部屋のドアの前、誰もいないマンションの廊下、の、はずなのに……そんな……。

「……ふたりでどこ行ってた。樫木」

スリーピースのまま私の部屋のドアに寄りかかっていたのは、あの絢人さんだった。
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