御曹司様の求愛から逃れられません!
玲奈さんの話した真実が、じわりと心に染み渡っていく。遠い日々のこと、再会してからのこと。そのすべての彼の中に私を好きだという気持ちがあったのだとしたら、私は今まで絢人さんのことを何も分かっちゃいなかった。

思わずポロリと涙が出てきて、口元からこぼれだしそうな思いを指先で押さえると、なぜか玲奈さんに頭を撫でられていた。

「彼の真夏さんへの愛は本物だと思う。ここまでして愛を貫こうとする絢人を見て、私も覚悟を決めたわ。……実は、私にもずっと好きな人がいるの。その人に想いを伝えようってやっと思えた。全部絢人と真夏さんのおかげよ」

彼女の目を見ると、今度は恋する乙女の眼差しに変わっていた。
玲奈さんに感謝されるほど私は何もしてはいないけど、それだけ絢人さんに想われていたという事実は、彼女のおかげで受け止めることができた。

「玲奈さん……」

「だから恋人になってあげて。このままじゃあの人可哀想だから」

“恋人”
涙で濡れた手もとに目を落とした。
玲奈さんにここまで話してもらったのに、私はそれでも心に何か引っ掛かったままで、首を縦に振ることができなかった。これには玲奈さんも眉を寄せている。
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