御曹司様の求愛から逃れられません!
私は携帯電話を両手で耳にピッタリと押さえつけ、もう一度聞いた。

「す、すみません。今、絢人さんの名前が聞こえた気がするんですが……たしか、来れないって話になってたんじゃ……」

絢人さんが来るかどうかは、招待状をもらったときすぐに早織さんに確認したはずだった。そのときは“来ない”と聞かされていたのに。

『そうそう。帰国が間に合うか分からないって話だったんだけど、帰ってきたからやっぱり出れるってあの後言ってくれて。あ、真夏が来ることは言ってないから絢人はまだ知らないかも」

私はしばし混乱して黙り込んだ。
早織さんの結婚式に絢人さんが来ることになっているなんて寝耳に水で、まるでこの膠着期間を一ヶ月後にはクリアしていなければならないと期限を付けられたみたいな気分になった。

「真夏?」

「あっ……いえ、何でもないです。そしたら絢人さんには私から話しておきますので……」

「うん。どう?絢人とは仲良くやってる?帰国して、会社で顔合わせるんでしょう?」

「……はい、そうですね。変わらないです、絢人さん」

これから結婚式を挙げる早織さんには余計な心配させたくないし、とても相談できない。席は隣か、向かいか、と気になったが、どちらにせよ気まずいことには変わりないため、それは聞かないことにした。

早織さんの用事はそれだけだったようで、もう一度楽しみにしている旨を伝え、電話を切った。
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