勇気の魔法は恋の始まり。
少し上がった息で、水帆たちの方へ向かってきたのは水帆に見覚えのある人物だった。

 スケッチブックを失くした大雨のあの日に見かけた男子学生のうちの一人だった。

 傘をさしていなかったのが目立っていたため印象に残っていたらしい。

 そしてやはり、彼は水帆に用があるようだった。

 ふと杏を振り返ると、なぜか眉間にシワが寄っている。

 警戒心丸出しの杏に、水帆は思わず首をかしげる。

 誰とでもすぐに仲良くなれる杏が初対面の人に対してこういった顔を向けるのはとても珍しかった。

 その様子を見た北斗も状況を理解したように杏の腕を引いていて、水帆からは北斗が杏を必死に宥めようとしているように見えた。

 まるで人を威嚇する犬と飼い主のようだ。
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