政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
今思えば、これが私の運命の分かれ道だった気がする。

私の目の前には叔母と談笑する長身の男性の後ろ姿があった。

「……叔母さん?」

会話に水を差すようで無粋かと思いつつも、遠慮がちに声をかけると叔母が私に気づいてにっこりと微笑んだ。

「ああ、彩乃ちゃん! 今呼ぼうと思っていたのよ。梁川さん、姪の彩乃です」

叔母の声に彼が振り返る。

その彫刻のように整った顔立ちには見覚えがあった。


「……あなた、は!」


初めまして、というはずだった唇は違う言葉を紡ぐ。

思わず目を瞠る。

礼儀に反した私の反応に驚きもせず、目の前の男性は見惚れてしまうほどの優美な笑みを私に向けた。


「初めまして? 彩乃さん」


差し出された手はとても大きかった。男性のものとは思えないくらいに細くて綺麗な指。

その動作に叔母がほんの少し怪訝な表情を見せたけれど、彼女は何も言わなかった。

「彩乃さん?」

胸に沁みこむかのように響く心地よい声が、もう一度私の名前を呼ぶ。

その声にぼうっと彼を見つめてしまっていたことに気づく。

私の馬鹿! 叔母さんの目の前なのに!

心の中で自分を叱咤して、平静を装って手を取る。胸中では疑問符が渦まいている。手の平に伝わる温かな感触。彼の大きな手は私の手をすっぽりと包んでいる。

「は、初めまして。鳴海彩乃と申します……」
たどたどしく言葉を紡ぐ。

内心は冷や汗でいっぱいだ。握手している指先が冷たく震えていく。冬だというのに背中をツーッと嫌な汗が流れ落ちる。
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