政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「か、勝手に座らないでください!」
「なぜ? 見合い相手の相良(さがら)を待っているからか? 残念だけど相良は来ない。彼には意中の女性がいる。その人と結婚するからと丁重に辞退の申し出があった」

ヒュッと私の喉が鳴る。そんな話は初耳だ。

どうして彼が相良さんのことを知っているの? 

私の見合い相手は都内の総合病院に勤務する外科医だった。祖母の知り合いの孫だと叔母からは聞かされていた。顔の広い祖母は様々な人脈をもっている。祖母が薦める人物だということで疑うことすらしなかった。

「……いつ?」
「君が見合いを申し込んだ日」
しれっと彼が返事をする。

どうして私の見合い事情を知っているの? どうしてわざわざ伝えに来るの?

「そんな話、聞いていません! 嘘を言わないで。相良さんは恋人はいないって仰ってたわ」
キッと彼を睨む。

早くここから立ち去ってほしい。相良さんが来られたら迷惑になる。

「それは誰から聞いた話だ? 俺は相良から直接報告を受けた。ずっと付き合っていた女性と共に将来を歩むことを決めたとね。急に見合いを押し付けられて困っているとも言っていた」
言葉を選ぶこともなく、ズケズケと彼は言う。

「相良は俺の学生時代からの友人だ。嘘だと思うなら彼に自分で確認してみたらいい。言っておくけど君のおばあ様もご両親もご存知だ」
そう言って、彼は優美にスーツの胸ポケットからスマートフォンを取り出す。

液晶画面に表示されているのは相良さんの電話番号のようだ。しかも着信履歴の画面。ご丁寧に最後に通話した日付まで表示されている。

その日付は彼の言う通り、私が見合いを申し込んだ日だった。
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