一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


柄を握らせるユリウスの手が、ゆっくりと剣を抜いていく。


「抵抗はしない。俺を殺せば君はメイナード王の仇を討てる」


父の名に、メアリの肩が僅かに跳ねた。

ユリウスが内通者ならば、メイナードの死はユリウスがもたらしたものだと嫌でも気付かされたからだ。

そして……


「……チャンスは、今しかないんだよ」


今のユリウスの表情が、ロウから帰還した後の気落ちした時のものに似ていることにも。


『死ぬべきは王ではなく、きっと』


あの時のセリフが、もしも後悔からの本音であったならと、メアリは本当のユリウスを探るように見つめる。

冷たい瞳の奥に隠れているはずの想いを、敵討ちに惑わされ見過ごさないように。


(ユリウスの全てが嘘だった?)


自問し、メアリは青白い光を受けた刃先に視線を移す。

ユリウスが振るった剣は、ヴラフォスだけの為だったか。

ユリウスが救ったものは、ヴラフォスの為になるものだからか。

メアリを助けた時、自らが命を落とすべきだったと零しかけた時、部下を心配し駆けつけた時。

そこにいたのは、ヴラフォスのユリウス皇子ではなくアクアルーナの騎士ユリウスだったのではないか。


< 181 / 330 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop