甘く抱いて、そしてキスして…【完】
ちょっと薄暗さを感じる店内。以前のような活気が全くなくなっていた。

「いらっしゃいませ」

店員さんも、知らない顔だ。

「あ、店長さんいらっしゃいますか?」
私は思わず聞いてみた。

「門倉ですか?」

「ん?店長さん変わりました?宮川店長は?」
私はおそらく寂しそうな表情で聞いた。

「あ、すみません、宮川は別店舗に異動になりました」

「えぇーそうなんですか、わかりました」

なんだ久しぶりだったのに、残念。


「アイスカフェラテ2つね」
ふと、私の落ち込みを止めるかのように、翔太郎が注文した。

店内を見渡すと、客はただ1人のサラリーマンだけ。
私がいた頃とすっかり変わってしまっていた。


「美園、『overseas』は、今かなりやばいらしい」
険しい表情の翔太郎。

「え?ん……まぁそんな感じだよね…」
私は妙に納得した。

「かなりリストラされてるみたいなんだ。
それで、俺は気づいたんだ。ちょっと美園に頼みがある」
一段と険しい表情になる翔太郎。


「真田司、北山司について調べてくれ」


「ん?真田先生って、北山なの?あ、あー婿養子だからかーでも、なんで?」


「黙っててごめん。俺は途中で、気づいてたんだ。穂乃香の妹の旦那って」


「ん?どういうこと?穂乃香さんに聞いたらよくない?」
私は不思議いっぱいで、全身クエスチョンマーク。


「聞けないから、お前に頼むんだ。あいつは何かを知っている…おそらく…」
翔太郎の話は途切れること無く続いた。


「俺は、ここのリストラの話がヒントになり、親父の会社にいた全社員をしっかり調べ直したんだ。そうしたら、北山って言う社員にだけ、名簿に赤線が引かれていたんだ。杉川区に住んでる人だった……そして、調べて行くうちに、真田司は、そいつの息子だと分かったんだ」


「…」
その場で凍りつく私。

「あいつの狙いを探ってくれ」

「…」

「おい、美園大丈夫か?やっぱ荷が重いか?」
心配そうな表情に変わった。


私はハッとした。

「わ、わかった。気をつけて調べてみる」
私は、即座に凛とした態度を見せた。

翔太郎が、私にこんなこと頼むなんて……


「報告はマメに頼むよ。いいな?」

「はい」

私がそう答えると、さっき運ばれてきたアイスカフェラテを翔太郎は、一気に飲み干した。

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