とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

 俺の発言の意味も分かっていない様子で、彼女は悩んでいるという大学のパンフレットを見せてくれた。

『だから、父や兄をサポートするのに事務系の資格が取りたいので専門学校にするか、ここの秘書科がある大学がいいのか悩んでるんです。秘書科って品格や幅広い教養を身に付けるって、息が詰まらないかなとか』

 とても可愛らしい悩みをもっている彼女の相談役はとても楽しかった。

 ご両親や兄からもらった愛情を、こうやって愛情で返そうとしている部分が、自分にはないもので、そして自分に足りないもの。欲しかったもの。

 ……もし。もし彼女が迷惑でなければ。
 大人になったとき、浚ってもいいだろうか。


 相談に乗るうちに、頼られるのが嬉しかった。
 甘えてくれる存在は、どうたら自分をしっかりさせる成長につながるらしい。
 彼女の前では少しだけ、大人ぶってしまう自分に気づくと、もう自覚せずにはいられなかった。

 一矢が一人暮らしを決め家を出るときに、俺も丁度大学が忙しくなるので家庭教師を一旦やめることにした。
 辞めても、一矢とは今後も付き合いがありそうだし、俺の方はこれで繋がりがなくなるとは思っていなかった。

 だから家庭教師の最後の夜、おじさんと一矢が飲みすぎて寝落ちした後、彼女と二人でタオルケットをかけながら、互いに顔を見合わせ笑いあった時、確かに俺は未来を感じていた。

『喬一さん、一人暮らしですか?』
『あー、そうだよ。でも忙しいときは、洗濯物をカバンにつめて実家に眠りに帰ったりしてる。この歳で情けないんだけどね』

『命を預かる仕事ですから、大学も大変なんですよね。良かったら、おばあちゃんのお野菜が沢山あるので持って帰ってください』

『自炊はしないから、野菜をもらっても。でも本当に美味しいよね』
『喬一さんはいつも祖母の野菜で作ったおかずを褒めてくださるから、私も嬉しいです』

 そういうと『これ、今日買ったお弁当箱だから』とお弁当箱を洗い、中に野菜のおかずを沢山詰めてくれた。
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