とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。
点滅している光が、壁の向こうからも見えていた。
「日色先生に貰った紙袋があるだろ。それの中に色々入っている。じゃあ、行ってきます」
「……いってらっしゃい」

 名残惜しそうな顔で微笑んでから、彼は病院の方へ向かう。
 紙袋を覗くと、化粧落としとか化粧水とかメイク関係のものが全部用意してあった。
 自分ではわからないから日色先生にお願いして用意したに違いない。
 彼は最初から私をデザートにする予定だったのだと、この中身で分かった。
 あんな優しくて甘い笑顔に流されるところだったが、やっぱり彼は強かだ。
 デザートにするって言ったくせに、仕事の顔に戻ると格好いいから何も言えなかったし。

「あー……悔しいっ」

 私だけ彼に転がされている気がする。
 経験値が違う。年齢が違う。生き方が違う。
 この先、私は彼に甘やかされて、駄目な子豚になってしまいそうだ。

 それが悔しくて、お風呂も洗ってギリギリまで彼を待っていた。

 それでも朝、出勤時間になっても彼は帰ってこなかったので私はすごすご家を出た。
 私が病院の前を通り駅に向かうとき、また救急車がロータリーに入って行っていた。

 今、病院の中で彼は怪我人の手術をしているのかもしれない。
 一人だけお花畑のように浮かれていた私は、頬を叩くと改札口に吸い込まれていく人々に交じった。

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