ビーサイド
「ちょ…あの…」
慌てふためく私をよそに、その綺麗な顔はどんどんと迫ってくる。
覚悟を決めて目を瞑ると、その唇は予想に反して、左耳にキスをした。
これは感じたとかじゃなくて、普通にびっくりして体が跳ねてしまったのだが、それが彼に火をつけてしまったらしい。
白石さんは耳から唇を離さない。
「ライブハウスのときも思ったけど」
生温かい舌の感触に声が漏れる。
「耳、弱いの?」
ふっと笑った彼の息がくすぐったくて、体をよじった。
まだ何も始まっていないのに、すでに私の心臓は悲鳴を上げていた。
やっと離れたと思ったら、次に白石さんは指で私の唇をなぞる。
「口にしてもいい?」
― こんなの知らない。刺激が強すぎる。
これ、どうしようとかじゃない。
私じゃどうにもできないと悟った。
大人しく彼の言葉に頷くと、一瞬口元の緩んだ白石さんと唇が重なる。
洋介以外の男性と、初めてのキス。
それはもう、何が起ころうと今までの私たちには戻れないことを意味していた。