ビーサイド

きっと涼くんも、昨日その誰かと何かうまくいかないことがあったのだろう。
それで同じ境遇の私に手を差し伸べたとすれば、辻褄があう。

まるで何かのドラマのように、目覚めた瞬間冷たくされるのが怖くなって、私はベッドを抜け出して、帰り支度をしようと思い立った。

「おーどこいくの」

「へ、うわ」

急に後ろから抱き寄せられて、朝からこの心臓はまたも速度を速めた。
触れあう素肌が気恥ずかしくて仕方ない。

「帰ろうかと思いまして…」

「帰り道わかんないくせに」

首元に顔を埋められて、かかる息がくすぐったい。

「まだ帰んないでよ」

耳元で聞こえる甘い声。
そんな声、一体どこから出しているんだ。

もう体中の力が抜けてしまい、成す術なくこの腕に抱かれることにした。

理性を保てない自分が怖い。

洋介のことは忘れて、早急に次の相手を探さなきゃいけない。
だってもう私は、28歳だから。

それはいいんだ。

ただ、相手が涼くんというのは絶対にあってはいけない。

私がしたいのは恋愛じゃなくて、結婚。
恋愛の延長線上に結婚がなかったことを知った今、私が選ぶべき相手は結婚相手なのだ。

5つも年下で、バンドマンで、そのうえ女性の影があって。
そんな人絶対だめだし、そもそも叶う見込みすらない。

高鳴る心臓を抑えつけて、必死にそう言い聞かせた。


< 23 / 96 >

この作品をシェア

pagetop