【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
ここまで話をして、言い淀んだ。
自分のごくごく個人的な話を神永さんにするべきなのかどうか。彼はこの話を聞いてどう思うだろうか。
ちらっと様子を窺うと、だまったままわたしの話に真剣に耳を傾けてくれている。
急に口を閉ざしてしまったわたしに何を言うでもなく、次の言葉を待ってくれていた。
わたしはいったん閉じた口を開いて、話を再開した。
「就職活動中に、父が亡くなったんです。急な話で死に目に会えずに……。お父さん子だったので、やっぱりさみしくて。
思い出にひたっているうちに小さなころのことを思い出して、それで証券会社を受験したんです。すみません、なんか感傷的な理由で」
大学で経済を勉強してそれを生かしたかったとか、日本経済の一端を担いたかったとか……そんな大きな志を持ってこの仕事についたわけではない。きっと彼の期待した答えとは違うはずだ。
「なんで謝るの? 君の仕事に対する姿勢につながる話で大変納得できました」
「あ、……その。がっかりしたりしませんでしたか? わたしあまり優秀な社員ではありませんし、きっかけもこんなで」
「いいえ。そんなあなただからこそ、君の担当のお客様も資産をあずけてもいいかなと思ったんだろうね。次こそは、素敵な提案がいただけると期待していますよ」
就職活動のときでさえ、志望動機としてあげなかった本当の理由。
ともすれば馬鹿にする人だっているだろうし、甘い考えだって思われるかもしれない。
けれど神永さんは、それを否定しなかった。
それだけのことなのに――。
ここ最近、仕事での自分のありかたに悩んでいたのが、一気に晴れたような気がする。
「はい! 次こそは、ご納得いただける提案をさせていただきます」
「楽しみにしていますね」
神永さんはコーヒーをひと口飲むと、やる気満々のわたしを見て苦笑を漏らしていた。