【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
ん……何……いったい。

 頬をつんつんとつつかれているような気がして、手で払う。

 しかしまたしても頬に何かが触れる。心地よいまどろみを邪魔されてイライラしたわたしは、今度は少し乱暴に頬に触れる〝何か〟を掴む。

「もうっ! まだ目覚まし……って」

 はっとして言葉を失った。自分の部屋じゃないことが一瞬にしてわかったからだ。そして自分が掴んだものに視線を移す。

「ぎゃあ! か、か、神永さんっ!」

 焦って飛び起きたわたしを見て、彼は笑いをかみ殺しているようだ。

「おはよう」

 まだ肩を揺らしながら、さわやかな笑顔で挨拶をしている。動揺を隠しきれないわたしとは正反対で、彼は落ち着き払っている。

「ど、どうしてわたし、こんなことに」

 たしか昨日帰る前に、様子を見ておこうと思ってそこで……。

 やってしまった。

 もしかして、わたし自分から病人のベッドに上がったの? だとしたらとんだ非常識人間……痴女じゃないのっ!

 自分のやった取り返しのつかないことが恥ずかしくなり、手に持っていた布団に顔をうずめた。

「大丈夫。そんな落ち込むようなことはしてないから。昨日目が覚めたら、君が眠り込んでいたから、俺がベッドに寝かせたんだ。変なことはしてない。神に誓ってもいい」

 神永さんは頬のあたりで両手を開いて身の潔白を主張している。
< 82 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop