エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「さっき私が電話してたとき、先輩、部長から呼び出しされてたし、応接室から3人で出てきましたよね。きっと仕事の打ち合わせなんじゃないかなって思って」
「そう、桃子ちゃんの言うとおり」

 憂鬱そうにする私に比べて、桃子ちゃんは羨ましそうに両手を擦り合わせた。
「倉持さんと仕事出来るなんて羨ましいですよー。新しい恋が生まれるかもしれないし」

 仕事の大変さも知らずに暢気なことを言っている桃子ちゃんに私は内心少しイラッとして、引きつりそうな笑顔で、
「それじゃあ、仕事変わる?」
 と言った。

「えっ、本当ですか?」
 桃子ちゃんの目が輝く。

「でもね、仕事は凄く大変だよ」
 そう言って私は自分が任された仕事内容を、一つ一つ全部桃子ちゃんに説明してみせた。すると、みるみるうちに桃子ちゃんの表情は曇っていった。

「や、やっぱり、私には無理そうです」
「でしょ? 恋なんて生まれてる暇ないよ」
「ですよね。余計なことを言ってすみませんでした」

 桃子ちゃんは私との会話から逃げるように自分のデスクに向き合い、仕事に取り組み始めた。私は鞄からお茶の入った水筒を取り出し、中身を一気に飲み干す。

 とりあえず今日は今まで通りの仕事をこなすことになった。夕方にある営業事務の会議で部長から引き継ぎの話をしてもらい、明日以降、徐々に仕事を他の子に引き継ぎながら、環の仕事もこなしていくという流れになっている。この二~三週間はいつもより多めの残業を覚悟しなければならない。

「環のためなら仕方ない。こうなったら、残業代をがっぽりかせいでやる」
 私は一人呟いて、自分の仕事に取りかかり始めた。
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