エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
話し出すと堰を切ったように当時の感情が溢れ出し、止まらなくなって、やっと話し終わった頃には、何故か私の瞳からは涙がこぼれていた。
「やだ、なんで泣いてんだろ」
自分から話し始めたくせに、情けなくなって思わず顔を逸らす。
一方の環は険しい表情で俯き気味に腕を組み、ただ一言、
「……最低なやつだな」
と冷たく突き放す声で言い放った。
「お前の落ち度なんて一つもない」
そう言ってポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを差し出してくれた。私は申し訳なくて指の腹で瞼を拭ったけれど、環はその手を取って私にハンカチを握らせた。
「ごめん。ありがと。28にもなって人前で泣くとか我ながら情けないね」
環のハンカチを目に当てると、ふんわりと優しい柔軟剤の香りが鼻をかすめた。その匂いがまた私の胸の奥を苦しくさせて、涙が沢山溢れ出してきてしまう。
「ご、ごめん。ちょっとトイレに行ってくる」
私が席を立とうとすると、環は手を伸ばし、私の腕を掴んだ。ハッとして顔を上げると、環は真面目な顔で私を見据えている。
「ここで泣けば良い。トイレに行く必要なんてない」
「で、でも」
「良いからここにいろ」
私は言われたとおりに座り、涙が止まるまで暫く環のハンカチを瞼に当てた。環は何も言わず、静かに私を見守っていてくれた。
少しずつ気分が落ち着いてくると、私は深呼吸をして、ハンカチを離した。きっと瞳は赤くなって、酷い顔だ。でも、何年も心につっかえていたものがふっと取れた気がして、話す前よりも大分気持ちが楽になっていた。
「落ち着いたか?」
環の問いかけに、こくりと小さく頷いた。
「……うん。何だかすっきりした。今まで誰にも話したことなかったのに、環になら話しても良いかなって思って。まさか泣くなんて思わなかったけど」
「そうか。お前が楽になったなら良かった」
そう言うと環は、ふっと口許を緩め、すっかり冷めたパスタを再び食べ始めた。私もフォークとスプーンを手に取り、パスタを口に含む。
「美味しい」
パスタは温かくなくなってしまったけれど、美味しく感じて自然と笑みがこぼれた。
その後は遅れを取り戻すように、静かに二人で食事を食べ、ワインを飲んだ。最初はあんなに沈黙が気まずかったはずなのに、今は不思議なことに全く苦にならない。
本当は環ともっと話したいことがあったはずなのに、私の失恋話も泣き顔もすんなりと受け入れてくれた環が、何だか目の前に居るだけで安心して、このまま何も話さなくても良いような気がしてしまったのだ。
環も私に気を遣ってくれているのか、時折私が「美味しい」というと穏やかな口調で「そうだな」と軽く相づちを返してくれるだけで、何かを積極的に聞いてくることはなかった。