エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#11 温もりと衝動 ―環side―

 週明けの月曜日、いつも通り始業一時間半前に出社すると、梓はまだ会社に来ていなかった。部長に挨拶をし、既に来ている何人かの営業社員に挨拶をすると、コートを脱いでデスクにつき、パソコンの電源を入れる。

 仕事のメールをチェックすると、急ぎの内容がいくつか入っていた。いつもならスケジュールを確認しながら、捌くように返信をしていくのに、今日に限って頭が働かない。金曜日のことがどうしても脳裏にちらついて、俺の集中力を奪う。

『俺がお前の失恋の痛みを上書きしてやる。だから――俺と付き合ってくれ、梓』

 コンピューターばかりに向き合ってまともに恋愛もしたことがない俺が、多少アルコールが入っていたとは言え、よくもあんな台詞をいきなり梓に言えたなと思う。でも彼女は、

「恋愛するのは、まだ怖い」

と言って彼女は俺のコートを掴んだまま、まともに顔も見ようとしてくれなかった。

気まずさを避けるように俺は平静を装ってタクシーを呼び、彼女を乗せて家に帰したが、内心は後悔でいっぱいだった。

梓を戸惑わせてしまった。俺にとっては恋愛対象でも、彼女にとっては俺はただの幼なじみだ。いきなりあんな風に告白されたら、戸惑うに決まってる。

――でも。

涙を流した彼女を見た時から、俺の胸の奥は少しずつ冷静で居られなくなっていた。連絡が取れなくなったのは単なる事故で、恋人もいないことが分かって、内心舞い上がっていた。反面、彼女を傷付けた男に激しく怒りもわいた。それでも、「幼なじみ」として「出来るだけ普通に」接したつもりだった。

それが思いがけず、梓の小柄で温かな体が俺の腕の中に入ってきた時、全てが吹き飛んだ。

理性ではなく本能で彼女に告白してしまっていた。

あの頃の様に単なる幼なじみじゃなく、大人になった今、一人の男として俺を見て欲しい。もう傷つかなくて済むように、俺が梓を幸せにしたい、そんなエゴが口を吐いて出てしまった。
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