エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「……特に思い当たる物はないですね」
 それからいくつか質問されたが、俺は淡々とした口調を崩さずに彼女と話した。あまり会話が弾まないと分かると、彼女も諦めたようで、最後にもう一度微笑んで、俺のデスクから離れていった。

 俺の仕事量は新しいソフトウェア製品の導入が何社かでまとまったこともあって、日に日に増えるばかりで、取りかからなければならない仕事は山ほどあった。

 梓が出社してくるのが視界に映っても、思うように話しかける時間が取れない。
 
 外回りで会社を出る直前、デスクで仕事をしている梓に話しかけようと席を立ったが、タイミングが悪く梓が先に席を立ってどこかへ行ってしまった。俺は仕方なく新たに梓にお願いする仕事をまとめたメールを送り、会社を出た。

 それからも梓とすれ違う日が続いた。住忠ソリューションズの社員との打ち合わせや取引先への外回り、海外との電話のやり取りなどで直行直帰する日もあり、梓とメールのやり取りや電話で話すことはあっても、直接話すタイミングが取れなかった。

 会社に居ることがあっても、結城さんや佐々木さんが幹事の件で何度か俺に話しかけてきたり、部長との打ち合わせがあってなかなか彼女に話しかけることが出来ないままだった。

 そうしてる内に、俺は金曜のことを、自分の気持ちが本気だと言うことを彼女に伝えるタイミングを失ってしまい、日だけがどんどん過ぎていった。

 本当は仕事のメールや電話で彼女にさり気なく気持ちを伝えれば良かったのかも知れない。でも、どうすれば自然に伝えられるのか、俺は女性との関わり方は自分でも恥ずかしいほど無知だった。

 そんな自分を晒すのが恥ずかしくて、また彼女を混乱させてしまうのも怖くて、何より俺が傷つくのが怖くて、俺からは何も言えない日々が続いた。

 ――結局、俺はきちんと梓と話すことが出来ないまま、二度目の定時退社日を迎えることになってしまったのだった。
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