仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
本山には予想通り大勢の参拝客がいた。

けれど、とにかく敷地面積が広いので密集している訳ではなく、屋台で買い物をするのも、池を渡る橋を散歩するのも問題は無さそうだ。

屋台から美味しそうな匂いが漂い空腹を刺激されたが、まずはお参りをしておみくじを引くことにした。

本殿の前で手を合わせ、今年一年の平穏を願う。

(一希との歪んだ関係が解決しますように)

新婚一年目の初詣でこんな願い事をするとは思わなかった。

自嘲しながらおみくじ引く。

慧は大吉。美琴は末吉。

「慧って引きが強いよね、何か持ってそう。私は微妙だよね」。

眉をひそめる美琴に、慧はからっと笑う。

「おみくじくらいでそんな深刻そうな顔するなよ。美琴のだっていいこと書いてあるだろ?」

「え? どこに?」

金運も家庭運も仕事運もぱっとしなかったはずだけど。

怪訝な顔の美琴に、慧はにやりとして言う。

「恋愛運、待てば叶うだってよ?」

「……なんか、信憑性がないんだけど」

現実は、待っていたら余計に悪化しそうな状況なのだから。

気を取り直して境内を散歩する。途中屋台でおやつを買って、池のほとりのベンチに並んで座り食べる。

寒くて手はかじかむし、白い息が零れるけど、気分は清々しかった。

「こうしてのんびり過ごすのっていいね」

「そうだな」

「解放された気分」

「……家じゃのんびりできないのか?」

珍しく遠慮がちな声に隣を向けば、慧の気遣うような眼差しと視線が重なった。






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