仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「結構、人がいるね」

「この辺りじゃ有名な寺院だからな。中学の時の知り合いにも会うかもな」

「あー、会いたいな。久我山家に移ってから疎遠になっちゃったし」

「それなら二年の時のクラス会やるか? 俺、今でも何人かと連絡取り合ってるから声かけてみるけど」

慧の言葉に、胸が高鳴った。

「本当? ……嬉しいな。みんな元気にしてるの?」

「ああ、全然変わってない。相変わらずバカばっかりやってるよ」

何かを思い出しているのか、慧は楽しそうに笑う。

「慧は、昔の友達とも変わらず仲がいいんだね」

ほっとした。

実はホテルの御曹司だった慧だけれど、内面は昔とあまり変わっていないんだと改めて思う。

隣を歩く慧の様子を見る。

美琴より二十センチ以上高い背丈に、長い手足。柔らかそうな茶色の髪に、整った横顔。

(外見は本当に変ったけど……)

しみじみ感じていると、視線を感じたのか、慧が不思議そうな顔をする。

「どうかした?」

「何でもないよ」

「嘘言うなよ。今絶対俺のこと観察してただろ。何か企んでるのか?」

「企んでなんてないって」

白状しろと追って来る慧を置いて先に歩く。

(イケメンになったね、なんて改めて言うのも変だし)

慧は不服そうにしていたけれど、うまく話題を変えると、あっと言う間に機嫌が良くなる。

「なあ美琴知ってるか? 本山にアライグマが出たんだってよ」

「嘘!」

「ほんとだって。着いたら気を付けて見ておけよ。あ、でも見つけたら絶対近づくなよ? 可愛いイメージとは違って結構アグレッシブらしいから」

「え……信じられないんだけど」

元々明るく良くしゃべるので、話題は尽きない。

本山までの二十分はあっと言う間に感じた。
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