仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
恵美子は憮然とした様子だった。

しかし一希の次の言葉で、一転笑顔になった。

「独り占めする気はありませんよ。美琴の実家である鈴本家にも援助をする用意があります」

「あら? そうなんですか?……ごめんなさい、私ったら早とちりして」

「いえ。ただし条件があります」

「条件?」

恵美子が首を傾げる。一希は名刺を取り出し渡した。

「今後は美琴に金銭的な要求をするのを止めて下さい。必要な経費は電話ではなくこちらに記載の私のアドレスに連絡を」

「つまり今後は神楽さんが対応してくれるんですか?」

「ええ」

「分かりました。私にはもちろん異存ないです」

恵美子は嬉しそうに、一希のアドレスが書かれた名刺をチェックしている。

その姿を見ていると疲労感がこみ上げてくる。

「……義父は家に戻れそうにないんですか?」

「ええ、もう少しリハビリが必要みたいです。この家はバリアフリー化がされていないので、戻って来ても不便だし。改装出来ればいいんですけどなかなか難しくて」

恵美子の口調には含みがあったが、一希は気付かないふりをした。

「そうですか……だが今後の生活について考えた方がいいでしょう」

人に頼らず自立するべきではないのか。そう感じたが口にはしなかった。
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