仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~

翌日。

母、神楽寛子から連絡が来た。

「一希、美琴さんと早々に別れなさい」

「それは……無理です」

「駄目よ。逆らうならこちらにも考えがあるわ。あなたの妻を傷つけたくないのなら早く別れなさい」

威圧的な言葉に、一希は昨日千夜子から感じた以上の胸の軋みを覚えた。

暗い気持ちで自宅に戻ると、今日も美琴が迎えてくれた。



「お帰り、今夜はオムライスを作ったの。意外だけど一希好きでしょう?」

優しい声に、胸が痛んだ。

「……どうして知ってるんだ?」

「どうしてって見てれば分るけど、卵とケチャップ好きだものね」

「そんなことまで見ていてくれたのか?」

「もしかして気持ち悪いと思ってる?」

美琴は少し膨れて言う。

「いや……後悔しているだけだ」

今頃になって自分の想いに気付くなんて。

「後悔?」

不思議そうな顔をする妻を一希は切ない気持ちで見つめた。

彼女を傷つけたくない。やはり自分は結婚するべきではなかったのだ。

千夜子や皆を守ろうとして結婚したのは間違った選択だった。

今一番大切にしたい人を傷つけてしまうのだから。

こんなことになるなら関わらなければ良かった。

久我山俊三に脅されたとき、自分が消えていれば良かったのだ。

そうすれば、美琴は今頃別の……例えば葉月慧のような曇りのない男と幸せになっていたのだろう。

「……ごめん」

「え? なにか言った?」

「いや……」

彼女に手を伸ばしたい衝動を抑えて、一希は僅かに微笑んだ。



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